診療方針

1.専門医・指導医による診療

横浜脳神経内科では、日本神経学会のパーキンソン病診療ガイドライン2018に沿って、同学会の認定した専門医・指導医が診療を行っています。

パーキンソン病の診断は、患者さんが診察室に入ってきた段階ですでに診断が予測できます。さらに正確な問診と神経学的診察(実際に身体を動かしていただき、症状を分析する技術)でほぼ90%確定します。

当パーキンソン病外来では、文献や経験に基づき、その時点で最善と思われる治療を考えています。

 

2.他の疾患との鑑別

2.1 問診と神経学的診察

パーキンソン病の診断は、上で述べたように問診と神経学的診察でほぼ確定しますが、似たような症状の他の疾患を鑑別する必要があります。症状からも大体分かりますが、さらにMRI検査の画像所見が決め手となります。

2.2 MRI検査

他の似たような症状の疾患との鑑別のため、MRI検査を行う事もあります。

パーキンソン病では、MRI検査では一見正常に見える事がほとんどです。以下の疾患が主な鑑別すべき疾患となります。

①線条体黒質変性症

パーキンソン病とほぼ同じ症状で発症する線条体黒質変性症という疾患があります。多系統萎縮症という、脳の複数の系統が障害される疾患の1つで、後になって排尿障害や立ちくらみなどの自律神経症状やパーキンソン病とは異なる歩行の障害やしゃべりにくさなど小脳の症状が出てきます。

パーキンソン病の薬が効きにくく、パーキンソン病よりも進行が早い特徴があります。したがって、薬物治療よりもリハビリテーションが重要となってきます。

パーキンソン病と同様、厚生労働省の指定する指定難病に該当し、難病医療費療養制度が使えます。

頭部MRI検査(軸状断)にて、下図のように両側の被殻という場所に高信号が見られます。

両側被殻の線状高信号

さらに進行してくると、下図のように両側の線条体の萎縮が目立つようになります。

両側線条体の萎縮

矢状断という脳を縦方向に割った断面で見ると、下図のように小脳や脳幹部という場所の萎縮が見られます。

脳幹部および小脳虫部上部の萎縮

また、脳幹部の橋という部分に「橋十字サイン」と言われる十字状の所見がみられる事もあり、小脳の萎縮により第四脳室という小脳と脳幹部との隙間が拡大して見えます。

橋十字サイン

 

②大脳皮質基底核変性症

パーキンソン病の症状と同時に大脳皮質症状(手が思うように使えない、言葉が思うように出ないなど)が出現します。手足の片側に症状が強いのが特徴です。

やはりパーキンソン病の薬が効きにくく、神経難病に指定されています。

頭部MRI検査(冠状断)で、症状に対応した片側の大脳皮質の萎縮が見られます。

CBD冠状断

 

③特発性正常圧水頭症

脳の内部に脳室という隙間があり、内部を脳脊髄液という水分が循環しています。この脳脊髄液の循環障害により特発性正常圧水頭症という状態になります。一見パーキンソン病と似た「すくみ足」が特徴ですが、専門医が診察すれば大抵は診断が可能です。

貯まり過ぎた脳脊髄液を逃がす手術により改善します。指定難病ではありませんが、原因について厚生労働省で研究がされています。

頭部MRI検査(冠状断)で、側脳室という脳室が上の方に拡大した所見が特徴です。

iNPH冠状断

 

④進行性核上性麻痺

上記の特発性正常圧水頭症とほぼ同じ「すくみ足」を示す歩き方で、転びやすい事で気が付く事が多いです。

やはりパーキンソン病と同様、厚生労働省の指定する指定難病に該当し、難病医療費療養制度が使えます。

頭部MRI検査(軸状断)にて、第三脳室の拡大と中脳被蓋という場所の萎縮が見られます。

PCA

下図はパーキンソン病の場合ですが、そうした所見は見られません。

PCA

矢状断という脳を縦方向に割った断面で見ると、ハチドリを横から見たようなHummingbird signという所見が見られ、上記の中脳被蓋の萎縮を反映したものです。

PCA

パーキンソン病ではHummingbird signは見られません。

PCA

 

⑤脳血管性パーキンソン症候群

パーキンソン病で障害される中脳黒質や線条体を含む脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)で生じるとされていますが、きわめてまれで、当院では症例経験がありません。

当院では患者さんの症状や経過を基に診察を行い、どんな撮像方法が必要なのかを考えて検査を行っています。また、判断の難しい症例の場合、複数の専門医が画像をダブルチェックして見落としを防ぐようにしています。

 

3.周辺病院との連携

パーキンソン病自体で入院が必要になる事はありません。ただ、他の疾患で精密検査や入院治療が必要になる場合はあります。当院では、そんな時のために医療連携病院としていつでも引き受けていただける病院を確保しています。

当院では、下記の病院との医療連携を行っています。いずれも信頼のできる病院です。

横浜脳神経内科との医療連携病院

 

4.最小限の薬による治療

どんな薬にも必ず副作用があります。当院ではできるだけ多くの薬を使わず、最小限の薬で最大の効果が得られるよう、飲み方の工夫や薬以外の方法を考えています。

疾患の進行とともに、次第に薬の効果が不充分となってきますので、薬の量を増やしたり複数の薬を組み合わせる事も考えます。

 

5.日常生活向上のためのアドバイス

パーキンソン病は薬だけでは充分な治療効果は得られません。様々な生活習慣の改善で効果が得られるため、ご自分でできるリハビリテーションの方法や日常生活上の工夫をアドバイスしています。

一人ひとりの患者さんの生活スタイルをお聞きし、うまくいかない事を少しでも改善できるよう、パーキンソン病で悩んでいる方のお役に立ちたいと願っています。

 

(文責:理事長 丹羽 直樹

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